アトツギの旗手たち
農業で人を幸せにしたいー。兄弟が見据える未来。

村岡オーガニック  村岡佑基さん(35)
村岡朋典さん(33)

 誰しも陥るときがあると思うのだが、いつの間にか「目的」と「手段」の区別がつかなくなることはないだろうか。何をするかも大事だが、なんのためにやるかはもっと大事だ。その軸がしっかりしていると間違った方向にはいくことはない。だが、これがなかなか難しい。北栄町で花や野菜の苗を生産販売する「村岡オーガニック」の後継、兄の村岡佑基さんと朋典さんは「農業はただの手段。農業を通して人を幸せにしたい」と口を揃え、この点でぶれがない。

「農業が楽しい」という原点

会社は30年前、父の昌美さんが大栄スイカの苗の作り手の減少などを受け、JA勤務から独立。兄弟は農場を遊び場に育った。「植物が成長していく姿を見るのも好きだった」朋典さんは保育園の頃から夢は農家。育った環境、育ててくれた親への思いは兄も同じで、佑基さんも「幸せになる方法は他にもあるかもしれないけど、兄弟で、それも農業だったら一番になれると思った。この業界では負けたくない」と胸を張る。

若い感性や視点で事業拡大に貢献している二人だが、入社した10年前の業績は順調とは程遠いものだった。「あのころ花壇苗は下火だった。昔は100円で売れたものが50円になって、でも資材費は上がっていた」と兄より先に入社し、会社の収益が激減した厳しい時代を知っている朋典さん。「何をしていいかわからなくて、働きながら夜のバイトに出ていたり…。ずっと休んでなかった」。まさに暗中模索の日々を送っていた。

そんな時、「100年に一度の奇跡が起きた」という。自社が研究し、朋典さんが品種登録などを担当していたぺチュニアの苗「マドンナの宝石」がフラワー・オブ・ザ・イヤーを受賞。これがどん底からの起爆剤に。「兄貴が帰ってくるまで会社が潰れていたかもしれなかった」。今だから笑って話せるが、苦しかった当時の話には本音が漏れる。

「アクセル」と「ブレーキ」

「どこにでもいるような兄弟ですよ」。けろりと答える兄に、「毎日けんかしていた頃もあって、 出て行こうかなと思った時期もある」と弟。お互いを「アクセル」(佑基さん)と「ブレーキ」 (朋典さん)と呼ぶ二人。正反対の性格はうまく作用すれば大きな力を生むが、えてして反発する力も大きい。

佑基さんは岡山大農学部を卒業。1年間オランダに農業研修に行った後、「人とのコミュニ ケーションはどんなビジネスでも成り立つ」と実家をいったん離れ、人材派遣会社に転職した。 もともと大学時代にはアイデアノートを綴ったと言うように、考えることが身上の人だ。「転職した経験で、自分が主観しか見えてなかったと気づいた。周りからどう見られているか、頑張ってい ても評価されないと意味がない」。思慮深さは増し、「コンビニの陳列の仕方でも気になる。なぜそう並べるのか。その理由を考えてしまう」と日常から探究心が染みついているほどだ。
「率直に言ってぶつかればいい」。鳥取に戻ったころ、業績が思わしくない社内で佑基さんは 異彩を放った。朋典さんと意見が分かれ、事業以外もすれ違うことが増えた。それでもマドンナの宝石をきっかけに事業が上向き始めると、佑基さんの積極的な姿勢を受け入れ始めたという。 「兄は洗脳が上手」。結果が伴い始め、そう笑う顔に信頼感がにじむ。

一方、兄にとって弟の存在も大きい。「昔から人懐っこくて。僕の同級生といつの間にか仲良くなっている。それが営業に生きている」。そして、佑基さんが全力で進めるのも、進みすぎるところで冷静に意見してくれる朋典さんがいてからこそ。アクセルとブレーキはこうしてバランスを とっている。

自分が幸せに、身近な人を幸せに

「ちょっといいですか、うちの経営理念なんですけど」。不意に佑基さんがぶれない〝軸〟について話し始めた。

「僕らは植物を通して人を幸せにしたいんです。目的は幸せになること。身近な人をいかに幸せにするか。それには自分たちが楽しく、幸せでないと人をそうすることはできない。それが大きな幸せを掴むための近道だと思う。儲けないのは悪で、きちんと循環していくように使っていきたい」

そこについて二人は徹底して考える。食べられる花を作ってみたり、玉ねぎを使った「ねぎ取県」 構想を北栄町長に提案してみたり、最近では岡山県での農場展開を考えたり…。生産者から行政を動かすことも仕掛けようとしている。「ものを作るだけが農業じゃない。ただ、苗を作るなら値段勝負になる。うちだけ儲かってもだめで、関わる人が儲からないと。そのためには人を巻き込んで いく仕組みを作っていかないといけない」と佑基さんは先を見据える。

「一人で頑張ってもできないし、楽しくない」と二人。「価値を共有して達成感を一緒に味わえている。昔、苦しかった時はできなかったことが今こうしてできている。それが嬉しいし、恩返しを形にしていきたいんです」と朋典さん。どん底も経験して、しみじみと実感がする。
人を、人と、幸せにしたい。
植物を通し、農業を通し、その先にいる人の顔を思い浮かべて-。
兄弟が紡ぐストーリーは、まだまだ続く。

(文・写真/藤田和俊)

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