アトツギの旗手たち
「成功するかでなく、面白いかどうか」。受け継ぐ開拓精神。

トミサワ 営業企画 林大和さん(25)

 社会人になって3年目の今年、転職して父で社長の和久さんのもとで家業を学ぶ。すでにあったものを継ぐということは、簡単なようで、難しい面もある。そのまま継承していればいいのか、変えるとしたらどう変えていくか。事業継承で悩む部分だ。「最初は何を、どうしていったらいいかわからなかった。でも、新しく事業をやって来た父からは創業するつもりでやれと言われています」。良き手本の背中を見ながら、徐々にその個性を発揮している。

未知なる家業へ

夢が見つからなかった学生時代。「文系だと金融系に行っておけばいいかもって感じでした」と就職活動をしていたが、周囲から「お前は銀行マンじゃないだろう」と言葉で立ち止まった。自分で何かを考え、形にできる仕事がしたいと思い、県内のテレビ局に就職した。しかし、現実は簡単なものではない。番組づくりや企画立案に躍起になったが、大きな組織の中で入りたての自分の声が通ることの難しさも痛感した。

その頃、家業の後継の話もあり、考えた挙句「やるなら早い方が」と、トミサワへの入社を決めた。家業は1970年に祖父が創業し、父が2代目に。電子部品製造の下請けをやっていて、先行きに不安を感じた父が10年前にLEDを自主開発。事業を大きく広げてきた。

「LEDって何?色温度を示すケルビンって何?っていうところからのスタートでした」と、家業の詳しいことは何も知らない状態から猛勉強の日々。「なんとか営業ができ、電気工事業者さんと話せるくらいまでになりました。意外と気持ちの問題で『これを売ろう』となると勉強も苦じゃないんですよね」。笑顔に充実感がにじむ。

自社の強みと次世代の感覚

「本当に良いものを作っています。それをより拡販していきたいんです」。自社製品や社員の仕事を知れば知るほど、誇りが芽生えてきた。大手が外国に労働力を求める今、トミサワは昔ながら職人作業で一から全て手作業で製造。しかも、それが鳥取という場所がらなのか驚くほど低価格で提供しているという。単数の商品受注にも丁寧に応えることができるのも強みだ。

「一回使ってもらうと9割以上がリピーターになっていただけます。とにかくその一回を獲得していくことが大事」と言い、営業面ではパンフレットや動画制作、ネット販売と前職の経験も生かしながら工夫している。

また、林さんも若い視点で新しい可能性を探る。「これまではB to Bで売っていたものを、B to Cにできないかと思うんです。開発者と話しながら、デザイン、色、見た目を相談したり。LEDというとステンレスのイメージですが、その色を変えるだけで反応が変わったりします」。住宅や店舗に使う家具や設備など、応用していく方法も模索しているところだ。

創業するつもりで

「やったことがないことをやってみろ」。右も左もわからなかった林さんに、父である社長はそう言った。LEDを開発した父は、現在も植物栽培用LEDの開発に力を入れるなど新分野への挑戦を続けている。それを間近で見るだけに、刺激を受けるのは当然だ。「LEDを単なる照明としてではなく、何か新しいことをやっていきたい」と意気込む。最近では中国メーカーの製品の仕入れから販売まで一貫して担当するなど、少しずつ新しい仕事を増やしている。

入社1年目。まだまだという時期ではあるかもしれないが、自身の中では急速に思考が変わった。「父は祖父から『明日から社長だよ』と急に言われたそうです。なので僕が同じように言われることだってありうることだとしたら、もし明日そうなるとしたらとか考えるんです。そしたら1分、1秒も無駄にできないんです」と語る。

智頭の長閑な山あいにある本社工場。「トミサワ」という社名は、祖父が創業地の地区名から名付けたという(当時は富沢工作所)。「祖父は智頭で多くの仕事を作ってきて、祖父を尊敬してついてきてくれた社員が長年残ってくれていると思うんです。そういうことも感じ、この先につなげていきたいですね」

「未知の世界だったんですが、自分が考え、売っていくと楽しいんですよ」
 祖父の築いた地で、父の開拓精神を引き継ぎ、前を向く。

(文・取材 / 藤田和俊)

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