アトツギの旗手たち
「考える」という天職。〝営業道〟をひたむきに進む。

   (有)ミツワ保険事務所社長 坂根義征さん(42)

 保険屋というと、どういうイメージを持つだろうか。日常的に使うものではないし、気軽に買うものでもないため、保険営業に対して抵抗感のある人も少なくない。しかし、それは保険という「物」を売られている感覚になるからではないだろうか。坂根さんと話をした後、少し違う感覚を覚えた。それは、この人の中に、営業に対する真摯な姿勢と、何より「人」のことを考えられる心があったからだ。「こんなにお客さんのことを考える保険屋はいない」。長年損害保険会社で勤める支店長は、坂根さんをこう紹介してくれた。

保険屋に生まれて

坂根さんが小学1年生のとき、父は車メーカーのディーラーで勤めていたが、保険会社に声をかけられて保険業で独立を決めた。「夜中も電話がかかってきて、事故があった時には相手の保険会社ときつい言葉の言い回しにもなるし、大変そうだなという印象だった」。住友海上の保険代理店で最高位の「特級種別」に、中国5県で初めて選ばれるまでに成長。間近に働きぶりを見て育ち、父にお礼を言いに家を訪ねてくれたり、喜んでくれる人の姿も、脳裏に焼き付いる。

カヌーに明け暮れた倉吉工高時代を経て、就職活動で自分の将来を考えた。保険屋に生まれて、自営業の大変さもみて育ったせいか「手に職をつけた方がいい。医療系なら収入も安定しているだろう」とリハビリの資格を取ろうと専門学校を受験。しかし、これに失敗。そのまま受験していた岡山にとどまり、小さなパン屋で働き始めた。

「だんだん店が売れて、工場みたいにひたすらパンを作ることが嫌になってきて…」と働き方を見つめた。また、掛け持ちで働いていた居酒屋でお世話になった大将がカレー屋を開業するも、店長として任されてから半年で閉店させる経験をした。「なぜそうなるか。このころから色々考える癖がついたかもしれない。それにお金の大切さも身にしみた」と振り返る。そうした社会経験を積み、25歳の時に鳥取に戻ることになった。

営業とは何か

「人情系」という父とは、違うタイプと自負する。父は手取り足取り指導することはなかったから「自分なりに、このお客さんはこういうタイプかなぁと考える癖がついたかもしれない」。人と対峙する営業という仕事はなんなのか、ひたすら自分の中で考える日々だった。 営業を始めて10年経過したとき、高齢のお客さんに言われたことが忘れられないという。「どのくらいの確率で契約してもらえてるのかと聞かれ、10人に1人とか答えた。その人は『保険は10人中8人が入っている商品。そして買うか買わないかは1/2の選択じゃないか』と言われました。それまでは10人に同じストーリーを伝え、1人に響けばいいと考えていたんです」。自分本位で、相手を考えていなかったと気づいた。

保険営業には、マニュアルや商品説明のやり方がある。でも、その通りにいくのはなかなか容易ではない。「例えば買っていただくまでに1〜10の工程があるとした時、1〜4は関係づくりやニーズを知ったり、相手と関係を作ることなんです。それをせずに5から始めることはできなんです」。様々な人のタイプやその人の持つ背景。それらを考えずに同じような理由で断れていたのを、真逆に変えていった。 「こういう時はお客さんはこう感じるだろうとか、考えていくこと。本来、自分のファン作りと思って、営業も作り込んでいくこと。徹底的に相手のことを考えると、営業は誰でもできる」。本当に楽しそうに営業について語る。

できることを徹底的に

坂根さんの魅力は、理論だけではない。むしろ、そこだけで語れない。「保険屋って、いいことをひたすらしても急激に業績が上がるわけでもないし、逆に、いい加減なことをしても急激に落ちるわけでもない」と話す。だからこそ、できることは全て、徹底的にやるのが坂根流だ。

「当たり前のことを備え、遂行するだけ。言われたことをすぐする、挨拶をする、風邪をひかない、時間を守る…。普通のことを徹底的にする。それができないのに、目新しいことをしても、それは一瞬のこと。紙を一枚、一枚と重ねるようにやっていく」

仕事は車の自動車保険の扱いが多いため、事故対応に備えてジムニーには、主に雪に備えたレスキュー道具を積んでいる。「雪で駐車場から出られんくなったとかあるんですよ」。ちょっとした電話でも、坂根さんはお客さんの元へ駆けつける。そんな坂根さんだから、お客さんは電話をかけてくるのだろう。

3年ほどの前の大雪の時。運送会社の10tトラックが雪にタイヤを取られて立ち往生していた。「とてもじゃないが、自分の車じゃ牽引するのも無理。専門業者が来るのを待つしかないと帰ろうとしたんだけど、そのドライバーが切ない顔するんですよ」。気づいたら車を引いていた。

無事に救出した後、結局、その人とはそれきりだという。「あ、運送会社だし、色々仕事につながったかもしれない」と笑うが、そんなつもりもなかっただろう。営業を数字だけでとらえない。それも坂根流。だから、人に愛される。

(文・写真 / 藤田和俊)

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