アトツギの旗手たち
異端であれ。業界の価値観を変える、何事も面白がる力。

サービスタクシー 代表取締役 松浦秀一郎さん(34)

 取材後に、タクシーと並んで写真を撮らせてもらったのだが、松浦さんは次々にポーズを決めてくる。取材中にも面白いことをしようとするサービス精神を感じたし、取材に同席した安川さんとはフランス文学のことで意気投合する博学なところもある。思うに松浦さんはとても真面目で、そして、何事も真面目に面白がる人だ。それらが松浦さんの異端さにつながる。「自分のやるべきこと、楽しいことが見えてくる」と、新たな風を吹かそうとしている。

祖父の会社を継ぐ

昭和31年に祖父が創業したサービスタクシーを継ごうと決めたのは5年前。当時は東京で働いていたが、Uターンした。市内の進学校を卒業し、「10代の頃は地元が退屈で仕方なかった。アートとか洋服とか都会には興味あるものがたくさんあった」と東京の大学に進んだ。就職もシステム系を2年、カタログギフトの営業を1年やっていたが、どこか東京の水が合わなかった。「東京は疲れるんです。刺激はたくさんあるし、毎日退屈はしないかもしれない。でも当時の僕は指をくわえて見ている側だった」。何かを成し遂げて見たい理想と現実の狭間でもがいた。

一からタクシー業界のことを学ぶと、業界の〝常識〟に直面したという。「斜陽産業であるのに、すごいコンサバ(保守的)なんだなと。業界内のつながりが強く、みんなが足並みをそろえましょうという雰囲気がありました」。業界に染まってないからこそアイデアはたくさん出てくるが、例えば賃金の仕組みを変えてみようとした際には周囲からすぐさま指摘を受けた。業界のこと、社内のこと。少しずつ学び、何が自分にできるか自問する日々が始まった。

とりあえずやってみる精神

「鳥取に帰ってきて、普段の生活が心地いいんですね。日常がいかに大事だったかを感じ、そうしたら趣味も増えたんです」。もともと楽しそうなことには、止められても体が動いてしまうタイプだ。クラシックバレエ、サーフィン、マラソン、コンテンポラリーダンス、ブログ…。実に多様な趣味を持つが「すぐにやってみて、違うなと思ったら辞めるんです」ときっぱり。食わず嫌いはしない。やってもいないことを言うことも嫌いだから、まずやってみる。観光業につなげるためにPR検定や車の色選びに生かそうと色彩検定も受けたという。経営者としても、自分なりに改革を始めた。業界同様、社内にも昔ながらの慣習や意識が残っていた。「タクシーがただの乗り物でなく、これからはいかに心地よく送ることができるか、高齢者の方をサポートできるか。そこがコンテンツとしての可能性だと思いました」と言い、ただ乗せるだけでなく、サービス精神を植え付けていこうと考えた。

「ドライバーは会社に来るのもバラバラだし、みんな一つの個室を持っているようなもの。それでは一人親方のままにさせてしまい、それが仕事の態度に出ると残念じゃないですか」。社長スペースをDIYで多目的スペースに変え、社員と壁や天井を塗った。「打ち合わせやドライバーがお昼を食べたり、交流の場になっています」と笑顔を見せた。

タクシー業界の未来

人口バランスや社会の構造が変化している。それはこの業界にも当然影響を与えている。「人口一人あたりのタクシーの利用率って、実は鳥取って2位なんですよ」。車社会において病院通いの高齢者も増えている。ましてやサービスタクシーは街中に会社を構えており、ドーナツ化現象で街中の少子高齢化も肌で感じている。「まちづくりとか、雰囲気とか、意識しながら仕事をしていきたいんです。中心市街地の景色の一部でありたい」と、地域と寄り添うつもりだ。

「人の交流を結んでいける、それがタクシーの存在意義だと思うんです」。力強く言う。インバウンドの増加や高齢者問題…。タクシーがもっとできることがあると信じている。だからこそ、既存の価値観に縛られず、新しいことにチャレンジしていくのだという。ピンクタクシーも、ガイナーレのラッピング車も。面白がる力が、松浦さんを突き動かしている。

「いろんな状況が変わる中、これからは自分で作っていかないといけないと思うんです。色々やって目立つと『出たがり』と揶揄されることもあるけど、若いうちはできるバカをやっておいて、まずはタクシーというものに目を向けてもらいたいんです」

( 文・写真 / 藤田和俊)

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